バカというソリューション

「バカ前向き」というのは、わたしが仕事や生活をする上で、大切にしていることのひとつです。バカが付くほど前向き、でないと、事はある革新性を持って前に進めない、ということが多いから、です。

世の中には「気後れ」という言葉があります。ハッと心に浮かんだ言葉や脳からの行動指令を、何かが邪魔してアウトプット出来ない。成仏できなかった心の叫びと頭の勘。そして寝る前に悔やむ。多くの人が経験すること、ですかね。

わたしは、転校生だったし、身体の数箇所に(微々たるものですけど)ハンデがありました。だから、この「気後れ」というので、小さい頃よく悩んだですね。

「障害者」という言葉があれば、人間はみな障害者であって、健常と障害の境界線は緩やかである、と言っているのは私のメンターですけど、本当にその通りで、それは岸田秀さんの「人間は、本能が壊れた動物である」ということと重なってきます。

邪魔な何か(こだわりやプライドや怠惰性や)を排除して気後れしないようにするには(後から後悔しないようにするには)、どうするか。それを解決したのが、先の「バカ前向き」なんですね。バカになればよい、前向きでよい、と。ハンデを笑えばよい、と。

時間をかけてバカになってみると、世の多くの人が、いかにこの「気後れ」によって事を停滞させ、余計な心労を煩い、結果を悪にしているか、ということが、よくわかって、葛藤は皆同じなんだということはわかりました。

わたし自身、「この気後れという感覚が、問題の本質なのか」と気づいて、変化していったのはいつ頃だったか、よく覚えていないんですけど、やっぱり誰かの背中を見て、気づいたことだった記憶だけはあります。

気後れへの処方のひとつとして、昨今のグローバリズムではないけども、「言ったモノ勝ち」的なことで解決するという人もちらほら見ます。つまりまわりがどうとか、関係ない、という。でもこれだけでは、おそらく事はどこかで行き詰まり、ある日突然まわりに誰もいなくなっていることに気づいて、後でまとめて後悔、します。

気後れの苦しみから逃れるときに、自分だけ逃れられればよい、というのが上記の処方の本質ですが、気後れしないためにバカになる、というのは、このことではありません。

世に多くのマネジメント啓発本が出ていて、読んだことないですけども、その場に「気後れ」の雰囲気を無くす、ということに腐心すること、マネジメントの本質はそれひとつだけなんじゃないの?と私は思っています。

「バカ」というのは、自分を救うことにもなるのですが、バカの使い方では、全体を包括する知になるし、全体を最適化するためのツールなんだと思うんです。

テレビでお笑い出身の人が司会を務めることが多いのは、この原理ではないかな、と思っています。

先日無くなった赤塚不二夫さんについて書いた過去の記事(「森田一義アワー」)にコピペした、タモリの弔辞にもありますけど、バカになることの重要性を、赤塚不二夫さんは説いています。

バカは、目の前の事象を包括して最適化する。バカ丁寧、バカ正直、バカ忍耐。そしてバカ前向き。バカがつくほど何でもやることの「突きぬけ」が、場をまとめて、何かを成すには、必要なんでしょうね。

バカを認定するのは「常識」というものです。バカになる、というのは「常識に囚われない」と同義ですけど、一流のバカとたくさん付き合って、自分の常識という枠を外していく、上位世代フェチでオミズマインドである人々の、何よりの愉悦ですかね。

バカはですから、孤独です。「あいつはバカだから(常識の枠外だから)といって、無視されてしまうことも否めません。バカで、親和してくれる人もいりゃ、存在を無視する人もいりゃ、敵対する人もいます。全体を最適化することもあるけど、個別事象では、知らない間に気づかないところで、人を追い詰めていたり、傷つけていたり、することもあります。

だから、バカという場の最適化を図る人間は、「謙虚」じゃなきゃいけないという理路にたどり着きます。

その場を最適化しても、個別には言葉に出来ない、行動に出来ない人はいます。場のマネジメンターは、そういう人を見つけたら、個別にはとことん付き合う。言葉が出てくるまで、行動が起こるまで「バカに気長に」付き合うんですかね。

目の前で部下の女の子が泣いている(押し黙っている)。なんで泣いているか(押し黙っているか)わからない。その時あなたはどうしますか?というのが、産業カウンセリングのひとつにあるんです。20代の中盤でしたか、知り合いの産業カウンセラーと飲んでいて、その話を聞きました。
これ、正しい(というか成果を出せる確率の高い)やり方は、「泣き止むまで(話し出すまで)何時間でも黙って付き合う」なんですよね。相手が泣き止んで(沈黙を破って)、話せる状態になってから、ひとつひとつ時間をかけて聞き出し、真相に迫っていく。わたし自身も何度もそういう場面に遭遇していますけど、それによって人は前向きになって、事が前に進んだ確率が大きかった気がします。(ですがあくまで確率です。100人100通り、ですから)

そういえば養老さんの「バカの壁」って「バカ売れ」した本がありましたね。あれってバカについて、どんな書いてあるんでしょう。気になるのでいまさら(笑)買ってみますかね。