現状維持の質について

私の日課のひとつで、朝仕事する前に必ず帝国データバンクの倒産情報を見ます。見る理由は、日々社会状況を感じて自分を戒めるっていう意味ですけど、今またもの凄い勢いで、大中小企業は倒産しています。

あ、今日はお金の話です。

今は特に住宅、不動産、建設業界がひどいですけど、それぞれの産業構造の問題もあるけど、なんつっても銀行の「貸し剥し」に近い状況が、拍車をかけている。ほんとにお金借りられないし、取立ても厳しい。一部では近いうちに(早ければ年内に)100年ぶりの世界恐慌も、なんていう悲観論もあるわけですが。

「お金の流れは銀行に聞いて社会の流れはタクシーの運ちゃんに聞け」という格言の通り、知り合いの金融マンに聞いても、それは現実的にそうだそうです。明日生きられるかどうか、個人はまだそこまで追い詰められていない人も多いけど、特に何も自立性を考えずにやってきた企業は大変な時代です。

私が今マネジメントに参加している会社は、ほぼ無借金経営です。(長期借入金が微々残っている程度)こういう時代に、銀行を頼りにしない、というのは自立を考える上で大切な意識だと思いますし、それが無理なく実現できているというのは幸せなことで、かなりの経営能力です。今、私のまわりの本当に自立を志す経営者、はほぼそうですね。

先の「主体性」とも絡んでくる話ですけど、金融機関の怖さ(つまりその人の栄枯盛衰ですが)を経験している経営者は今の時代、無借金経営というのを、自分の経営力のひとつのバロメーターにしている気がします。

「無借金」がいい、と言っているわけではないですよ。「借金」の意味、質の問題です。

それは個人とて同じことです。

私事ですけど、私は一時期、ある会社のマネージャーとして年収はサラリーマン平均の1.5倍近くありました。同年代と比べると、かなり多くもらっていたと思います。そこまでほぼイケイケできました。
その前の、子なし共働き(DINKS)の時は、合わせて大台(平均の約2倍)を超えてましたけど、やっぱり同じですね。ほとんど人付き合いと2人それぞれの啓発のために使いました。毎日夜中でも誰かしら家にいて、御もてなししてました。それもいい経験です。

今は無理もなくなって、少し落ち着きましたけど、そうやって年収が上がったり下がったりしながら思うのは、結局お金ってのは、あったらあったで、という程度のことで、最低限の安全と安心が守られる、というので収入のラインを引いておけばよい、あとは時代の流れやツキも合わせた個人的状況に合わせて生活レベルを調整しながら、都度真剣に生きればよい、と個人的には思うのです。

でも、世の中に目を向けてみるとそうでもないようです。
今多くの方がお困りなのは、一度体験した生活レベルを「下げる」ことが出来ない、というのがあって、それは大方、先回言った「世間様」と「己の欲望」、つまり、つまらないプライドとこだわりとの戦いがあるわけですけど、これでは特に今は大変です。

「生活レベルを落としたくない(周りに敗者だと思われたくない)」「欲望は常に満たされておきたい」という現状維持が引き起こす無理は、何をもたらすんでしょう?(それは企業も同じで、だから私にたくさんお金くれていたその会社を「美感」で辞めましたけども)

生きていれば、いろいろなシーン(SCENE)があります。時代のシーンもあれば、個人のシーンもある。その局面の状況を的確に捉えて、無駄なところに力を入れず、素直に自然体で時代に向かっていくことの大切さは、この歳になってようやくわかってきたことです。

生きていれば(もしくは企業活動していれば)、必ず「後退局面」というシーンがあります。「現状維持」が最大のミッションである場合が必ずある。そこは「あえて攻めず」に死守する時期ですね。特に企業社会というのは「拡大」することが前提の運動体ですから、これを忘れがちです。

経済の世界では今は「ゴールデンサイクル」という言葉があって、あと数年後に好景気がやってくるという説があります。今の景気後退は、次のゴールデンサイクルの好景のためのかがみ込み(クッション的)である、という内容で、まあそう思わないとやってられないよ、ということも多分にあると思いますけど(笑)、大事なのは「だから今を耐えろ」という、ゴールデンサイクル説の本質的なメッセージです。でも現実を見ると、耐えられず、持ちこたえられず。もしくはやみくもに焦って攻める。もしくは何もしなかったり。。引きこもごもです。

でもこういう感覚って、一回自分で「経験」したり「失敗」してみないと、なかなか分からないのも確かです。つまり、そうやって失敗から学んで、人間は強くなっていく。だから若い時は失敗を恐れず何でもやってみたら、ということになりますけど、何も失敗する可能性が一番高い時に焦ってやらなくても、という状況分析も大切よってことを教える冷静で知性のある大人も、もうちょっといていいかな。(笑)

「成長拡大」が前提の企業では「現状維持は衰退である」とも言うわけですけど、個人もまあ、そうですね。今は黙っていても右肩上がりはあり得ないですから、個人も「現状維持」のまま、は衰退、が現代ではリアルです。だから無理に現状維持をしようとして、オカネ借りてギャンブルしてのテレビCMが流れ、人妻が売春をして、ギャンブルと借金返済に充てる世の中です。。

まあ、この社会状況で自立性を保ちつつ、後退局面を現状維持で耐え凌ぎ、次の成長機会を虎視眈々と狙う。イケイケの社会でないからこそ、そういう知性がキラっと光る時代で、大きいものに擦り寄りもふてくされもせず、の「拡散」という中立性(自立性)を在りかたとする私としては、とても面白いですし、好きな感じですね。