小悪魔の系譜学

「小悪魔」っていう単語は、どこから出てきたのでしょうか。私の知るところでは、加賀まり子の初主演映画「月曜日のユカ」ですけど(昭和30年代)、その前からあったんでしょうかねえ。

加賀まり子は、最近あまり見ませんけど、僕ら世代では「とんがったおばさん」っていう(笑)大変失礼ですけど、そういうイメージですが、「月曜日のユカ」でのセンセーショナルさは凄かったようです。一時期、90年代後半か2000年前後にリバイバルみたいなのがあって、映像も手に入りますけど、昭和30年代の東京の「ハイソ」文化の一端を知るには、貴重な資料ですね。

昭和30年代の石原兄弟の「太陽の季節」や「月曜日のユカ」というのは、都心の資産家のご子息ご令嬢の知られざる(そして決して手の届かぬ)生態ということの側面がありましたよね。経済的な「差」だけでなくて住んでいる場所、まわりの人脈、あらゆる埋まらぬ「差」の頂点に、石原兄弟も加賀まり子もいた。それは時代的な背景もあったけれど、高度成長まで文化を牽引した「都心のおぼっちゃんとおじょーちゃん」の「洗練」のシステムって私は結構好きです。(今見聞しても、むちゃくちゃだから(笑))

詳しくは、昔に書いた「余暇と余金が産むカルチャー」(http://d.hatena.ne.jp/fraflo/20050522)を参照してください。

今日の話は、「小悪魔」です。

友人に「小悪魔雑誌」を出している出版社に勤めている人がいます。月刊誌で30万部、出るそうです。30万部!すごいね。雑誌業界は、オヤジ系雑誌の衰退が激しいということを聞きますけど、今この小子化の時代に30万部というのは、30万人の女の子の「小悪魔」願望ってなんだろうなって考えてみたくなりました。

加賀まり子の「小悪魔」から「小悪魔雑誌」の「小悪魔」まで。私思うんですけど、今の「小悪魔」って昔の「ヤンキー」のことではないですか?(笑)と言ったら怒られそうですけど。。

「ヤンキー文化が日本の市場を牽引している」ことに気づいて初めて語ったのはナンシー関だったと思うんですが、若者の10人に7人は潜在的ヤンキー文化継承者だと言われてます。ヤンキー文化って何よ?ということですが、わたし考えるに「様式美=わかりやすい」ってことじゃないでしょうかね。なんかの本に、例えばヤンキー文化の記号的単語として「工藤静香」「浜崎あゆみ」「ルイヴィトン」「ネイルアート」って感じで(笑)出てましたけどね。

「ヤンキー」と「小悪魔」の関係を考えていたら、山口百恵キャンディーズが出てきました。キャンディーズ吉田拓郎のメロディに乗って「私は悪魔」と歌ったのは加賀まり子から20年後ですけど、清純派アイドルだったキャンディーズが「悪魔」だと主張した。つまりまだ「小悪魔」はヤンキーのものではなく「加賀まり子」ラインでしたよね。
逆に山口百恵は「ヤンキーアイドルの系譜」としてあったわけだけど「女の子の一番大切なものをあげるわ」とヤンキー特有の、男に寄り添う女の「叙情性」をまだ歌っています。

別に私はアイドル評論家じゃないですけど「山口百恵中森明菜工藤静香安室奈美恵浜崎あゆみ倖田來未」と続くヤンキーアイドルの系譜で、いつ「悪魔」が「ヤンキー」のものになったんでしょう、ってどうでもいいこと考えてますけど(笑)、おもろい話です。

そこで思うのは、昨今のヤンキー文化を継承した「小悪魔カルチャー」には、それまでのヤンキー文化には確実にいたはずの「男」が不在だということに気づきます。女は自立して強く生きていかなきゃいけないわ、と言い出したのは、やっぱり浜崎あゆみからでしょうか。男は弱ってモーニング娘に行っちゃいましたか。(笑

このブログでも「男の子は女の子に学ぶべし」と言い続けたのは本当に生態学的な危惧で(笑)、意識しないと同世代の男と女はどんどん乖離していって、「ちょい悪オヤジ」とか「枯れ専」とか出てきて大して中身もないけど金はもってるオヤジがモテたり(あ、ちょい悪オヤジも「ヤンキー文化」だね。)、あるいはモロ「お金」を媒介する形態(ホストクラブね)とか、だから同時平行で、社会はそっちに行っちゃう。

まさに「FragmentFloor!」(笑)。お金が床を繋ぐわけで、ことヤンキー文化の良さだった叙情性とかなんとなく牧歌的な相互扶助みたいな関係はなくなっちゃいましたかね。

時代のマクロな流れで逆らえないとはいえ、気のなるのは小悪魔に相手にされない「男の子たち」の行方、ですが。。ネットで匿名で噴き上がって満足したり、偶像に身を浸したり、人を殺して存在を示したり、どんどん生命力が落ちて、自立の道が閉ざされていきますね。

やっぱり小悪魔も、数が増えちゃったらまずい。(笑)加賀まり子が小悪魔やってる頃は、まだ良かったんですけどねえって、やっぱり50年って時間の系譜っておもしろいし、軽い眩暈がします。