S-KENと阿木譲

「日本ロック雑誌クロニクル」という本が出ている。日本のロック雑誌、もといロックジャーナリズムが戦後日本においてどういうものだったか、という総括的な内容かと思ったが読み終わってみると「阿木譲」という人物の再評価本であったという印象である。

私、この人物を知らなかったわけだけどそれしか印象に残らない、というのは本の内容よりも日本の音楽史の中で、そんなに重要な人物がいたのか、という驚きで、その前の内容がふっとんでしまったのである。

日本の戦後、特にロック周辺の大衆音楽史(というと大げさだけど)は僕の中では細野晴臣周辺を語れば、大方は語れると思っている。彼の(そして彼を取り巻く周辺の)先進能力と団塊世代の、つまり数にモノを言わせる突破能力が大衆音楽業界を切り開いてきた、ということになる。

例えば、政治で戦後を語る場合、田中角栄という人物が出てくるけど細野さんを田中角栄的位置とすると、有能な官僚は誰なのかという話になる。
矢面に立つ政治家と裏からバックアップする官僚その構図からいうと、官僚のひとりとして僕は、S−KENという人物を挙げる。
音楽の発見というのは世界中にあるわけで、ひとりの人間が全てを網羅できるはずがない。細野さんにもシンクタンク的な人物がいるだろうとは思っていた。
S−KENは、ニューヨークパンクを日本の紹介し、「東京ロッカーズ」というムーブメンを起こした仕掛人として有名だがその後もS−KENに見出され、シーンに新たな風を吹き込んだミュージシャンはいっぱいいると聞く。細野さんとも交流があり、面白い音楽、新しい音楽の情報交換を70年代当時からしていた、という話はどこかで耳にしたことがある。

そこで、「阿木譲」である。
大阪で「ロックマガジン」なる雑誌の編集人として「ロック雑誌クロニクル」に紹介されているわけだけどとにかく、新しい潮流の感度が高く、日本で誰よりも早く新しいモード、流れをメディアに載せていたそうである。
この人もまた、団塊の世代が作ろうとした新しい音楽シーンのシンクタンクのひとりだったという事実に僕は心躍ったわけだ。(個人的にそういう役割の人、好きなんです)

その「阿木譲」という人物、今は「BIT」というWebサイトを運営しながらクラブDJや店舗経営などを大阪で行っているというが、サイトを見ると、どうもジャズ近辺に近づいているみたいだ。

2000年前後、シカゴ周辺等ハードディスクレコーディング技術の進歩により生演奏と打ち込みの融合、特にクラブミュージック系や音響系のジャズ正統派ではない人たちからのジャズへのアプローチといったものが出始め、とても面白い音楽がたくさん今でも出ていて、僕も大好きではある。

96年ぐらいに、インディーズの先端でインストジャズのバンドなんかが出始めていて(しかもかなりうまい)、やっぱりパンク→HIPHOP→テクノという時代を過ぎて楽器という肉体的修練を積んだものだけが手に入れられる技術とさまざまな音楽の方法論がぶつかり、面白いものが出てくるだろうなとは思っていたけど。。

実はS−KENも、「PE'Z」というインストジャズポップバンドの仕掛け人として、先日発売されたアルバムにもクレジットされていた。デビュー版からずっと名前が入っているから、そうとう肩入れしていると見てて、今回からオランダのレーベルと契約して世界進出を目論んでいるみたいだから(しかも東芝EMIを切って)S−KENの有能官僚ぶり、が発揮されていると見ているがどうだろう。

いろんな音楽が登場した、特に20世紀後半を有能官僚、シンクタンクとして音楽シーンに影響を与えてきた2人がアングラとポップというフィールドの違いはあれど共に21世紀に入ってジャズというキーワードに向かうというのは、またおもろ、である。