星野源「おんがくこうろん」の補助線としてのデトロイトテクノーstring of lifeをEテレで聴きたかったけど、in ths stone流れたからいっか。

洋楽志向の音楽好きからも話題になっている、星野源の「おんがくこうろん」をあたしもここまで3回、全部録画して見ました。Jディラ→ガーシュウィン→アリー・ウイリスときて、今週の最後は中村八大、という、いずれにしても裏方にスポットを当てた音楽番組で、裏方フェチのあたしにはたまらない番組でした。

流れでまとめてみれば
1で、2022年現在まで続くアメリカのブラックミュージックの分岐点をまず確認
2で、そこから時間軸を100年戻して、アメリカンポップスの源流時代を確認し
3で、60年頃のモータウンの登場からディスコまでのブラックミュージックを確認し
4で、今度は空間軸を移して、モータウン登場同時期の日本のポップスの同時代性を提示する(のか)
というようにまとめられるのかもしれませんが、この視座で捉えていくと、4回分を点ではなくて腺で学ぶことのフックに出来るのかなと思います。

とにかく、星野源古今東西のダンスミュージックが好きだというのが通底していた番組でしたね。

「おんがくこうろん」の「こうろん」は「公論」だという説を取っている人を見かけましたけど、たぶん「耕論」なんじゃないかなと思います。その意味では、やはりこの4回を見た後は、大瀧詠一さんの「日本ポップス伝」と「アメリカンポップス伝」を聴くのが良いですね。(笑)

大瀧さんのアメリカンポップス伝というラジオ番組は、おそらく自分で構成したラジオ番組としては遺作となっていると思いますが、2つのポップス伝は「耕論」という意味合いでは、非常に優れたコンテンツだと今でも思います。

大瀧さんの三大キーワード(影響も受けたもの)を「エルヴィスプレスリー」「60年代ガールズポップ」「クレイジーキャッツ」とまとめてみれば、それを裏方視点でみると「サムフィリップス」「フィルスペクター」「萩原哲晶」となり、それを考えると、「おんがくこうろん」はそれをあえて外しにきている感じもあります。
特に思うのは最後の人選の中村八大さんで、おそらくクレイジー狂いの星野さんならデクさんを正面からやりたかったのかもしれないけど、それは大瀧さんが(本人へのインタビュー含めて)やってる、から八大さんセレクト、ということはあったんじゃないのかなあ。(テレビとラジオで違うけど同じNHKだし(笑)NHKにいまも影響し続けるナイアガラの血流におもいをはせつつ)

話を戻します。

「おんがくこうろん」は1~3はアメリカを縦軸(時間軸)で視座を移動させてますけど、4だけ横軸(空間軸)を移動させる手法をとってるんですが、1~3で繰り返し「デトロイト」が出てきます。つまりⅠ~3で、この120年に渡るアメリカンポップスの時間軸を見る時に1つの重要な場所が「デトロイト」だったんだ、ということを確定させておいて、今週の最終回で場所軸を日本に移すということをやってます。

それで突然あたしの個人史になりますが、「デトロイト」と言われて、年齢的にあたしの頭の中に最初に出てくるのは、ホワンアトキンス、ケビンサンダーソン、デリックメイであり、「デトロイトテクノ」という音楽ジャンルの80年代後半に起きたイノベーションです。

おんがくこうろん1では、ゼロ年代以降の重要な分岐点として「ディアンジェロ」がいて、Jディラがディアンジェロに与えた影響を1で提示していますが、あたしは、そのJディラ、もしくはディアンジェロの先達としての「デトロイトテクノ」があったんじゃないかということを2つの点から思っています。

1つは、ジャズミュージシャンの菊地成孔さんが昔自分のラジオ番組で、ディアンジェロで採用されているハーモニー(それは西洋音階の枠を逸脱したものだったのですが)、その影響や源流を「デトロイトテクノ」のセカンドジェネレーションであるジェルミルズに置いています。ジェフミルズの西洋音階のハーモニーをズタズタに捻じ曲げて展開していくトラックで、あたしは若い頃真っ暗はフロアで踊り狂っていましたし、初めてジェフミルズの「change of life)を聴いた時の(西洋音階しか学校で習わない我々の)違和感は忘れがたく、そのことは体感としてよくわかります。

2つめは、「おんがくこうろん」の1、で、Jディラがクオンタイズを使って補正を行わないがためにできる「リズムの揺れや溜め」がディアンジェロに与えた影響が解説されていますが、同じ打ち込み音楽である「デトロイトテクノ」の、例えばデリックメイ(Rhythim is Rhythim名義)のトラックなどは「リズムの揺れや溜め」があります。なぜそう言うかというと、あたしが当時ターンテーブルでプレイすると、デリックメイの曲はロングミックスができないことを体感済だからです。
他のきちんとした4つ打ちのリズムとグルーヴがまったく違っていたので、カットインカットアウトでしか、デリックメイの曲をプレイすることは難しかった、そして困ったことにそういう揺れ溜めの曲のほうが好きだったので、すごくそのことを覚えています。

Jディラがデトロイトの地元ラジオから流れるデリックメイやジェルミルズを始めとするデトロイトテクノを浴びるように聴いていたことは想像に難くありませんので(それは3、でアリーウィリスが10代のころ、モータウンのスタジオの前の駐車場でレコーディングの音漏れを聴き続けていた、という話と同じで)、あたしはjディラの源流をデトロイトテクノに置く、という説を更に書いておきたいと思います。

デトロイトテクノの源流はシカゴハウスで、シカゴハウスの源流はニューヨーク(ウェア)ハウスで、その裏方の代名詞はラリーレヴァンですから、「おんがくこうろん」の第2シリーズではラリーレヴァンが来てほしいなあ。

ラリーレヴァンをやれば、おんがくこうろん弟1シリーズの2→3→1と繋がるアメリカのポップス、というよりダンスミュージックの歴史の3→1の間を繋ぐことができるんじゃないかなと上記とあわせて個人的には思いますが、まあ実はそんなことはどうでもよくて、あたしはラリーレヴァンが大好きで、NHKEテレで「Runaway」が流れるのを目撃したいだけかもしれません。

追記:今週最後となる「中村八大」さんも内容が楽しみですが、日本のポップスの中でデクさんでも服部良一でもなく中村八大を選んだ星野源さんとそのスタッフから読み取れるのは、いずれにしても以前から言っている星野源さんは大瀧詠一言うところの「服部良一系譜」であることの証明で、細野さんの弟子と言う時点で決まっている流れとはいえ、星野源さんがここで八大さんじゃなくて「船村徹」を選んだとしたら、それはそれで面白かったとも思うんですけども、第2クールがあるとして日本人なら誰なんですかねえ、堀内敬三さん、相倉久人平岡正明さんなんかも裏方フェチとしては。(笑)


追記2 パラリンピックの放送で4回は一週遅れだそうです。

追記3 未公開トークで、解説員がデトロイトテクノとデリックメイに触れてるそうです。良かった。