五たびレクイエム~立花隆さんを偲ぶ~レクイエムばっかり…

五たびレクイエム。立花隆さんご逝去の報。

「知の巨人」という称号を与えられた人は結構いると思うんですけど、例えば吉本隆明とか橋本治とか、それぞれ「知」の在り方は違うんですけども、立花さんはとにかく自分の興味の赴くまま、その分野を短期集中でぐっと掘り下げていく、けど、学者のように1つのことを永遠やるのではなく、興味は次から次へと脈絡なく移っていくという、そういう人だったのかと思います。音楽で言うところの細野さんとか、分かりずらいところでいくと、プライマルスクリームとかの在り方に近い。笑
その嗜好ゆえ、1つのことを長い事研究する人々から「浅い」とか「ウソや誤解が含まれる」とか言われて批判されるわけですけど、それって大瀧さんもポップス伝の時言われてたんですよね。笑 

あたしと立花さんということでは、10代の頃に古本屋で「中核vs革マル」という、70年代中盤の新左翼内ゲバの内情に迫ったノンフィクションを講談社の黄緑の文庫本に出逢って読んだのが最初だったと思います。そこから、同じ黄緑の文庫で出ていた「田中角栄研究」を読みましたが、あたしの運命の分岐は、そのまま立花隆的世界に入るのではなく、ノンフィクションシリーズとなっていたその講談社の黄緑の文庫シリーズを著者関係なく横に読み続けることにあり、立花隆とともも戦後ノンフィクション作家のもうひとつの星、鎌田慧さんの一連の作品「自動車絶望工場」「教育工場の子どもたち」などに出逢い、社会構造の本質を炙り出すその一連のノンフィクション本を通じて、自分がどのような社会的文脈の中で生まれ、育ち、特に管理教育に肩までつかった茨城県(愛知、千葉と共に管理教育3大自治体と言われてたこともその時に知る)に育った自分の「歴史的空間的位置」を知ることになるのですが、ここが運のツキ笑、あたしの知的好奇心は(良い意味で)常軌を逸していくのでした。

ノンフィクションというジャンルは定義が曖昧で、例えば民俗学でいう「聞き書き」みたいなものや、事実をただありのままに実況するようなものも含むんだと思うんですけど、立花さんや鎌田さんの本ていうのは、ある問題に対してまず個人的仮説があり、それを徹底的に調べることによって検証していき、あるひとつの結論を導き、その価値を社会に問う、という学問研究に近いやり方をしていて、それはこれまで続くあたしの仕事や生活にも活かされている「在り方」なんですけども、この「ノンフィクション作家」の在り方は80年代以降、衰退の一途をたどるわけですよね。

なぜ衰退するかというと、それは消費社会化が進む中において経済的に圧倒的に「損」だからで、膨大な取材費と時間と労力がかかる手法で生活が成り立たず、「初期投資少なく、すぐ書けて、すぐ現金化できる」ものが溢れてしまう。それはバブル崩壊以降、研究費は削られ続け、成果はすぐに求められる学問の世界でも同じことが起こって、70年代の立花さんや鎌田さんのような圧倒的な筆力を持つノンフィクション作品というのは、もうしばらく出てないのではと思いますし、この社会構造が続く限り、今後も出てこないのではと思います。

うちの一番上のムスメ(高3)が、現代社会の授業で結構な分量の論文書くことになり、「DV、虐待、いじめ」をテーマに掲げるからって、リビングの本棚を物色して、その上述の鎌田慧さんの黄緑の文庫本の学校教育といじめ問題関連を見つけ出してオモムロに読みだして、面白くて2日で読み終わっちゃった、ということがこないだあったんですけども、うちのムスメ2004年生まれですし、特に活字中毒ということもなくて、本よりスマホな現代的な若者ですし、鎌田さんの本はそもそも文体が固くで難しいですし、40年以上前に書かれたもので時代状況も違うから理解も大変なんだろうと思うのだけども、にも関わらず「むっちゃ面白い」と令和女子が夢中で読むという、そこに潜む「普遍性」は、もう圧倒的に手間をかけて作られているという、その1点に尽きるんじゃないかと、こないだ思っていたところでした。

70年代は「マジメ」で、マジメを茶化し始めたのはおれたち世代だった、と言ったのは、みうらじゅんさんだったと思いますけど、立花さんにしろ鎌田さんにしろ、70年代のマジメな時代を象徴する書物群を若い頃浴びたことで、70年代→80年代→90年代の時代変遷を実感として身体に入れることができたと思います。湾岸戦争ぼっ発の時に、いとうせいこうさんが文化人として急にシリアスな声明を出した時のことを思い出すんですけど、高校生だったのかな。面白いことしかしてなかったせいこうさんの決意みたいなものに、時代はシリアスに戻っていくと直感したことを思い出します。それが立花さんや鎌田さんの本との出逢いに結び付いていくわけですね。

立花隆さんのご冥福を心よりお祈りします。

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